ファントムストック
企業が成長していく過程で、従業員のモチベーションを高め、優秀な人材を長期的に引き留める仕組みは欠かせません。上場企業であればストックオプションが一般的ですが、非上場企業では株式市場での売却益を期待できないため、株式を使ったインセンティブ制度の設計は難しいと考えられがちです。そんな中で注目されているのが「ファントムストック(疑似株式)」です。
ファントムストックとは、実際の株式を発行せずに「株価に連動するポイント(疑似株式)」を従業員に付与し、その評価額に応じて将来現金を支払う仕組みです。名前のとおり「幻の株式」ですが、株価の上昇メリットを疑似的に享受できるため、従業員にとっては株主にならずとも会社の成長を自分ごととして感じられるのが特徴です。
<メリット>
- 株主構成が崩れない
実際の株式を発行しないため、新たな株主が増えることなくガバナンスを維持できます。
- 現金で精算できる
退職時やM&A時などに現金で支払う仕組みなので、従業員にとっても分かりやすい報酬となります。
- 柔軟な設計が可能
権利確定条件(在籍年数・業績達成など)を自由に設定できるため、自社の人材戦略に合わせた制度構築が可能です。
<注意点>
- 株価評価の透明性
非上場会社には市場株価がないため、純資産法やDCF法など評価基準をあらかじめ明確に決めることが不可欠です。
- 税務・会計処理
従業員に支払う際は退職所得や給与所得として課税され、会社は退職給付引当金で処理するケースが多いです。
- 制度の複雑化リスク
従業員に伝わりにくい設計だと逆にモチベーション低下につながることもあるため、できるだけシンプルなルールにすることが成功のポイントです。
ファントムストックは、非上場企業が「株式を使わずに株価連動型のインセンティブを実現できる」有効な制度です。導入にあたっては株価評価ルールと精算条件を明確にし、制度を分かりやすく伝えることが大切です。企業価値の成長と従業員のリターンを連動させることで、双方にとってメリットの大きい仕組みとなるでしょう。