所在がわからない財産への課税が争われた事例
相続税の申告において、被相続人が生前保有していたであろう財産が、相続開始時点においてどこにも見当たらないという状況になることがあります。この場合において、その財産を申告しなかった場合、脱税として納税させられるのでしょうか、また、どのような判断基準でその行方不明の財産に対して課税が行われるのでしょうか。今回は審判所事例からこれらを確認します。
本件は、納税者が意図的に一部の金地金を課税財産に含めずに申告したとして、税務署が相続税の申告内容の修正を行ったのに対し、納税者側は当該金地金は存在しておらず、税務署の修正は誤りであるとして、その修正取消しを求めた事例です。
イ 被相続人、共同相続人等の概要
平成23年9月○日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡した請求人の父であるD(以下「本件被相続人」という。)の相続(以下「本件相続」という。)に係る共同相続人は、本件被相続人の子の請求人、E、F、G、H及び亡Jの代襲相続人であるK(以下、これらの者を併せて「本件各共同相続人」という。)であり、本件相続に係る受遺者は、請求人の妻のL及び子のM並びにEの亡妻のN(平成24年2月○日死亡)であった。
ロ 本件被相続人による金地金の取得状況等
本件被相続人は、金地金について、平成16年7月15日に金地金7,000g、平成19年8月28日に金地金11,400gをそれぞれ取得した。
本件被相続人は、平成20年10月頃、金地金1,500gをKに贈与し、同人は、平成21年3月27日に金地金500g、同年5月28日に金地金1,000gをP社(金地金の取扱業者)にそれぞれ売却した。
ハ 原処分に至る経緯
請求人は、本件相続に係る相続税の申告書(以下「本件申告書」という。)に本件相続により2,300gの金地金を取得した旨記載していたところ、その後行われた本件相続に係る相続税の調査(以下「本件調査」という。)において、本件調査の担当者(以下「本件調査担当者」という。)に対し、上記2,300gの金地金として金地金2,100g、金地金2個200gを提示した。
原処分庁は、本件調査の結果に基づき、金地金13,100g(以下、これら各金地金を「本件金地金」という。)を申告漏れの相続財産と認定し、課税価格に○○○○円を加算して本件更正処分をした。
(7,000+11,400-1,500-1,500=15,400g 2,300gとの差 13,100g)
ニ 本件被相続人の生活状況等
本件被相続人は、平成14年5月26日から平成20年8月12日までの期間、d市(d市の住居表示については、平成○年○月○日の行政区画変更によりd郡e町からの名称変更後の表示である。)f町○-○所在の家屋にて一人暮らしをし、同日から同年9月26日までの期間、g市h町(g市の住居表示については、平成○年○月○日○○施行後の表示である。)に所在するQ病院に入院し、Q病院を退院した同日から平成23年7月6日までの期間(病院への短期入院の期間を除く。)、請求人とa市b町○-○所在の家屋(以下「本件居宅」という。)にて同居し、同日から本件相続開始日までの期間、a市i町に所在するR病院に入院していた。
本件被相続人は、Q病院を退院して請求人と本件居宅にて同居するようになった平成20年9月26日以降、請求人に指示をして、本件被相続人の預貯金の入出金、銀行振込等の手続及び非鉄金属の移動等を行わせていた。
本件被相続人と請求人は、平成22年2月5日、本件被相続人の生活、療養看護並びに不動産・動産等全ての財産の保存、管理、変更及び処分に関する事務を請求人に代理権を付与して委託する旨の契約を締結し、これを証する同日付公正証書を作成した。
上記2の(1)の原処分庁の主張は、本件相続開始日において本件金地金を本件相続に係る相続財産であると認定した根拠について、本件被相続人が平成16年7月及び平成19年8月に金地金を取得した以後、1平成20年5月頃、同年10月頃及び同年11月頃にも本件被相続人の下に多数の金地金が保有されていたこと、2本件調査対象金地金取扱業者等に対する売却の事実がないこと、3Kを除く本件各共同相続人及び親族2名への金地金の贈与の事実がないことから、本件被相続人が本件金地金を売却した可能性が著しく低く、かつ、K以外の者に対しては本件被相続人からの金地金の贈与の事実はないとする推認を経て、本件相続開始日において、本件被相続人又は本件被相続人の委任を受けた請求人の管理下には本件金地金が存在したとするものである。
しかしながら、上記1から3までの事情は、本件相続開始日に本件金地金が本件被相続人の相続財産として存在したと認めるには十分とはいえず、他に原処分庁の主張事実を認めるに足りる証拠はない。
したがって、本件金地金は、請求人が取得した本件相続に係る相続財産であるとは認められない。
このケースでは納税者側の主張が認められました。