相続開始直前の現金引出に対する重加算税
今回は国税不服審判所において、相続開始の直前に被相続人の預金から相続人が引き出した現金に対して重加算税が課されるかが争われた事例を紹介します。重加算税とは納税者が意図して課税逃れを行った場合に、納税者に対して課される最も重い制裁措置となります。したがって、重加算税が課されるには、納税者の行為が慎重に判断されることになります。
本件の内容は次の通りです。被相続人は平成26年1月に病に倒れ、11日後の平成26年2月に死亡し、相続が発生しました。被相続人が病に倒れてから相続人である子が被相続人名義の口座から現金を引き出し、被相続人の配偶者である母と自身の口座にその引き出した現金の大半を入金し、その現金は相続財産として記載せず相続税の申告書を提出しました。入金された現金の大半は被相続人の葬式費用や法要等の支払に充てられておりましたが、申告書の作成にあたって子は税理士に残高証明のみで口座の入出金が確認できる通帳は提示せず、税理士も死亡前後の入出金についての説明を求めていませんでした。
課税庁側は、相続人が引き出した現金を相続財産と認識しながらこれを隠蔽し、税理士にも残高証明のみを提示して申告書を作成させ、脱税をおこなったとして重加算税の対象であると主張しましたが、審判所はこれを否定しました。(平成30年3月29日裁決)
その理由は次の通りです。
・入金された現金を相続財産と認識していたと断定ができないこと
・現金の大半が葬式費用等に使用されており、本件被相続人が倒れたことによる入院費用や死亡時の費用の支出に備えて行ったものと認めるのが相当であること
・税理士は通帳の提示を求めておらず、相続人側は提示した資料で事足りると認識していたものとも評価し得ること
今回のケースでは、入金された現金の使用使途が明らかであったことを一因として重加算税が課されることはありませんでしたが、その現金で相続人の私物を購入していた場合や使用されていなかった場合は、別の結論になっていたかもしれません。税務調査では相続開始前後の預金の入出金は細かく確認されますので、思わぬ事態にならないように注意しましょう。