財産評価基本通達による評価額が否認された事例
今回は大きく注目されその判決が話題を呼んだ判例についてご紹介します。
相続税法では財産を時価で評価することとしていますが、時価の算定は困難であり公平な納税のために財産評価基本通達という特別な事情が無い限り、一定の評価方法の下で財産評価をおこなうことを求めています。本件ではこの一般的な方法に従って算定した評価額が不当であるとして否認され、別途、算出した不動産鑑定評価が時価であるとされた事例です。
本件の経緯の概要については以下の通りです。大正4年に出生した被相続人が平成24年に94歳で死亡しました。被相続人は生前、不動産業を営んでおり、事業承継に関して信託銀行に相談していました。そこで平成21年に東京都杉並区の収益物件を8億3,700万円で、神奈川県川崎市の収益物件を5億5,000万円で購入しました。購入時、いずれも信託銀行で融資をしており、信託銀行での貸出稟議書にはいずれも「相続対策のため依頼」と記載がされていました。平成24年に被相続人が死亡し、これらを相続した相続人らは相続税の申告上、東京都杉並区の収益物件を2億円余、神奈川県川崎市の物件を1億3,000万円余として申告しました。その後、これらの相続財産を相続した相続人は平成25年に他の不動産会社へ神奈川県川崎市の収益物件を5億1,500万円で売却しました。税務署は相続税の評価額が不当であるとして訴訟に至っています。
結果、国税庁の主張が認められることとなりましたが、裁判所は次の内容を判断のポイントとしていました。
・財産評価基本通達による評価額と購入価額及び死亡時の不動産鑑定評価額とが著しく乖離しており、納税者においてもこれを事前に気付けたであろうこと
・本件の不動産の購入が相続税の減税を期待する前提でされており、これを認めればこのような取引をすることのできない納税者との公平性を害すこととなること
本件は令和4年4月に最高裁判決で確定しており、相続税申告実務だけでなく金融業界、不動産業界にも大きな影響を及ぼすものです。画一的な評価方法が一定の場合には否認されるとなると、これまで以上に慎重に財産評価を進める必要があります。上記内容に限らず相続税は申告までの経緯が非常に重要となりますので、生前から専門家への相談の重要性がより一層増したといえるでしょう。