事業承継・閉院時におけるカルテの引き継ぎ
事業承継をする場合に、何をどのように承継するかは重要なポイントとなります。そこで、今回はその中の「カルテ」の引き継ぎについて取り上げたいと思います。
1.保管期間
まずカルテの保管期間ですが、医師法上は5年間(法定保存期間)が義務付けられており、その起算日は治療が完了した日(最終診療日)とされています。よって5年を超えたら破棄してもかまわないのですが、万一医療事故による損害賠償請求をされた時にはカルテが重要な資料となりますので、その損害賠償請求の消滅時効期間(請求ができなくなる期間)までは保管することをおすすめしています。
なお、今年2020年4月に民法が改正されその消滅時効期間が変更になりました。現在は被害者が損害賠償請求できることを知った時(医療側の過失と損害を知った時)から5年間、医療行為の時から20年間となっています。しかしながら紙カルテを20年間保管しなければいけないとなると、かなり大変ですよね。よって、近年、より電子カルテへの移行が望ましい状況となってきています。
2.管理責任とカルテの引き継ぎ
カルテの管理責任は、医院の管理者にあります。そして厚労省のガイドラインでは、事業承継をした場合はカルテを引き継ぐことが可能であり、引き継いだ新しい管理者にそのカルテ管理の義務が発生するとされています。
また、個人情報の保護の観点からは、個人情報保護法において「合併その他の事由による事業の継承に伴って個人データが提供される場合」の例外規定が定められており、患者の同意がなくても提供(引き継ぎ)が可能となっています。
よって、事業承継した場合は自動的にカルテも引き継がれ、その管理責任も移行するという形となりますが、もともとの利用目的の範囲を超えてそれを使うには患者の同意が必要ともされているので、取り扱いには注意が必要です。
3.承継者がおらず閉院した場合のカルテ管理責任
誰も承継をせず閉院する場合のカルテについては、その閉院時の管理者に5年間の保管義務があります。
なお、もし管理者自身が死亡した場合は、遺族にそのカルテ管理責任は相続されません。厚労省の通達ではその場合の管理義務は行政上の義務であり、保健所などの公的機関が保管することが適当であるとされています。しかし一方、医療事故による損害賠償義務は遺族に相続されます。よってもしそのようなリスクが考えられる場合は、ある程度の期間、遺族が保管しておいた方がいいという考え方もあります。
前述のとおり、カルテは患者の同意なくても引き継げますが個人情報であることには変わりありません。よって、実務的には事業承継の案内とともに一言カルテの引き継ぎも行う旨を患者に伝えておくと、よりスムーズに承継が行えると思います。