MS法人のメリット・デメリット
● MS法人とは
医療法人は、医療法によって、その行う業務が制限されており、営利活動を行うことができないことになっています。そこで、医療法ではできない業務を補うことを目的として、株式会社や合同会社を設立することがあります。これをMS法人(=メディカルサービス法人)と呼びます。
ここでは、MS法人を開設する際に考慮すべきメリット・デメリットをご紹介します。
● 開設のメリット
1. 個人医院や医療法人ではできない業務を行うことができる
MS法人は医療法の規制を受けないため、どのような事業でも行うことができます。医療機関から請け負う業務としては、主に下記のようなものがあります。
- ①診療報酬請求事務や会計事務・窓口業務の代行
- ②医療機器・医療設備・車両等のリース
- ③医薬品、材料、消耗品等の仕入・販売・在庫管理
- ④土地建物の賃貸、不動産管理
- ⑤清掃業務・衛生業務
- ⑥医院の設備管理・保守
※医薬品の卸売や医療機器の賃貸を業務として行う場合は、許認可申請が必要です。
2. 個人医院の場合、税率を下げることができる
個人事業主の場合、所得税の最高税率は45%であるのに対し、法人税率は15%又は23.2%であることから、MS法人との取引を個人医院の経費に計上することにより、税負担を抑えることができます。
3. 事業承継で有利になる
医療法人の事業承継の場合は後継者が医師である必要がありますが、MS法人の後継者は医師でなくても問題ありません。親族に医師がいない場合でも、不動産を所有するMS法人を子に承継させるなど、事業の一部を親族に承継することができます。
4. 内部留保を還元できる
医療法人は利益を配当等で分配することができません。また、平成19年の医療法改正以後に設立された医療法人は、後継者が見つからずに解散することになった場合には、医療法人に残った利益は国のものになってしまいます。MS法人と取引を行えば、その支払いで医療法人の内部留保を減らし、MS法人から配当や役員報酬で受け取ることができます。
● 開設のデメリット・留意点
1. 取引に合理性が求められる
医療法人とMS法人との取引は、第三者との取引と同様の妥当性・合理性が認められなければ、税務調査の際に否認されるリスクがあります。その業務をMS法人に委託することが合理的であるか、その取引価格は第三者との取引価格と大きな乖離がないか、注意する必要があります。
2. 医療法人との役員の兼務は原則禁止
医療法人の非営利性を担保する観点から、医療法人とMS法人の役員を兼務することはできません。
3. 消費税負担の増加
MS法人との取引には消費税が課税されます。一般的に、消費税の納税額は売上にかかる消費税から経費等の支払の消費税を控除して計算しますが、社会保険診療が多い医院の場合、支払った消費税の大半が控除できません。MS法人との取引が多くなればなるほど、MS法人の消費税負担だけが大きくなり、一方で医院の消費税負担はほとんど減らないため、納税額が大きくならないよう注意が必要です。
4. 取引の報告義務
医療法人は決算が終わると事業報告書を都道府県知事に提出することになっていますが、MS法人との取引額が一定以上(※)の場合は「関係事業者との取引の状況に関する報告書」にて、MS法人の事業内容や取引の内容・金額等の報告が必要です。
※取引額が1,000万円以上、かつ医療法人の収益総額又は費用総額の10%以上を占める場合などをいいます。